このページの目次
◯ 指図権者とは
信託において、受託者による信託財産の管理・処分に際し、一定の行為について同意や指図をする権利を有する者を指名することができます。これが指図権者と呼ばれる者です。指図権者については、信託法上の規定は無く、信託業法にその規定があります。
◯ 指図権者を指名するメリット
家族信託での利用方法としては、例えば
- 受託者には判断が困難な事由
- 受託者の裁量権を制限したい事由
- 議決権など経営上の判断が求められる事由
が考えられます。
具体的な例としては、事業承継の一貫としての自社株信託が想定しやすいでしょう。中小企業の社長が、認知症対策として、後継者である長男に株式の信託を検討しています。本来、株式を受託した長男は、その受託者の立場で議決権を行使することができます。しかし、長男はまだ経験が浅いため、社長が現役で経営判断をできる内は、長男の議決権行使に制限を設けたいと考えています。
この場合の利用方法として、株式信託の契約において、指図権者として社長を指名することができます。すると、長男は株式の受託者でありながら、その議決権の行使においては、社長の指図に従うことになります。そして、将来社長の判断能力が低下した場合、指図権を消滅させるよう定めておくことで、長男が単独で議決権を行使することができます。
また、株式信託に限らず、不動産管理での家族信託においても、例えば受託者の管理る収益物件の賃料を、受益者に給付する局面で、タイミングや金額などを指図権者の指図を必要とさせることで、受益者の判断能力の低下が始まっても、受益者を保護することができます。
◯ 対策の目的に沿った設計を
指図権者の利用については、上記のように通常の信託スキームに一定の制限をかけることができますので、ご家族の事情によっては非常に有用な仕組みとして機能します。また、信託業法において指図権者に忠実義務が課されているように、一定の責任も伴う立場ですから、場合によっては第三者の専門家を指図権者とするケースもあります。
より想いに適った対策ができるよう、総合的な検討をするとよいでしょう。