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○ 認知症によって直面するリスク
昨今、人生100年時代と言われる中、健康寿命と平均寿命の大きな差が指摘されるようになりました。これはすなわち、認知症などによって、「自身の財産を自身で管理できない期間」とも言え、認知症はその代表的な要因と言ってもいいでしょう。
ところで、そもそも認知症になると何が困るのでしょうか。
これは、判断能力の低下によって、自身の財産を管理・処分できなくなる(あるいは認められなくなる)状況を意味します。具体的な例を挙げますと、預貯金の引き出し、定期預金の解約、不動産の売却・購入・建替え、施設等の入居契約などが困難になってしまいます。将来想定されるという意味では、多くの方に当てはまるのではないでしょうか。
○ 従来の認知症対策 ~成年後見制度~
家族信託を検討する際には、まず成年後見制度についても知っておくことが肝要です。
従来、認知症などによって判断能力が低下した場合、成年後見制度を利用することが一般的でした。この制度は、自分の財産の管理や他人との契約が出来なくなった方を対象として、その本人に代わって別の人(後見人)が、本人の財産を管理し、あるいは契約をする制度です。
一見すると、この制度があれば充分であるように感じる方もいるでしょう。
しかし、成年後見制度は確かに有用であると同時に、課題もあるのです。
後見人は、常に本人のために、本人の財産を散逸させないことを第一に考えなければなりません。これによって、後見人は裁判所の監督下に置かれ、親族が選任されにくく、原則として本人が亡くなるまで続きます。つまり、後見人への報酬が継続的に発生し、相続税対策や親族のための行為などが裁判所に認められず、後見を途中で止めようとしても認められないなどの事情が多く見受けられます。
○ 認知症対策としての家族信託
家族信託とは、「財産を持っている人(委託者)」が、「信頼できる相手(受託者)」に、「金銭や不動産など(信託財産)」を託し、「利益を受ける人(受益者)」のために、受託者がその財産を管理・処分・運用する仕組みです。
この仕組みを認知症対策を検討するご家族に当てはめてみましょう。
(事例)
亡き父から相続した自宅やアパート、金融資産を有している母親。将来母親が認知症になった場合のリスクとは…。母親の自宅を売却したいとき、アパートを建替えたいとき、母親の定期預金を解約したいとき、判断能力が無ければできなくなってします。
では成年後見制度を利用すればどうでしょうか。裁判所の監督下ではそれらの行為が認められない場合があります。専門家が後見人になることで、継続的に報酬が発生します。例えば無事に売却を終えたとしても、本人の後見制度は終わりません。
そこで、家族信託が皆様のニーズに応えます。
母親(委託者)から、信頼できる長男(受託者)へ、必要な不動産や預貯金を託する旨の信託契約を締結します。この契約において受益者を母親と設定することで、長男は母親のため、預貯金を管理し、必要に応じて不動産を処分することができます。そして、これにより発生する利益は、母親に帰属します。
つまり、母親が認知症になり判断能力が著しく低下しても、長男が代わりに管理・処分し、必要な利益を母親に給付することができます。
さらに、家族信託の大きなメリットとして、その契約内容をオーダーメイドで設定することができるという点が挙げられます。以下にいくつか例示したいと思います。
(例1)
何を信託するか…という点において、信託する母親の財産を選ぶことができます。逆に言えば、信託する必要の無い財産は、そのまま母親の下に置いておけるということです。
(例2)
信託をいつ終えるか…という点において、契約の中で信託の終了事由を定めることができます。
(例3)
信託が終わったら誰に渡すか…という点において、契約の中で信託終了時の帰属先を定めることができます。
(例4)
受託者に何をしてもらうか…という点において、契約の中で受託者の権限を定めることができます。
○ 始める際の注意点
家族信託は、非常に柔軟な設計ができる一方で、そのスキームには多くの検討すべき要素が存在します。
また、不十分あるいは過度な設計により信託が無効とされる危険もあります。そしてもう一つ、家族信託のご相談をいただく際、本人が認知症になった後に、そのご親族からご相談を受けることがあります。
信託とは本人が誰かに託すものですから、判断能力が著しく低下する前に、検討・実行する必要があります。お早めに、実績ある専門家にご相談されることを強くおすすめします。