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家族信託専門司法書士が徹底解説!!「成年後見制度」と「家族信託」の違い

2020-04-15

 これまで判断能力低下後の財産管理としては、「成年後見制度」が利用されてきました。近年、新しい財産管理・承継の手法として「家族信託」が急速に普及しています。どちらも本人の財産を家族などの第三者が管理する方法です。

 それでは、両者にどのような違いがあるのでしょうか?しっかりと事前に整理しておきましょう。これから家族信託を始めようと考えて人には必見の内容です。

 

1 「成年後見制度」とは

 成年後見制度とは、認知症などが原因で判断能力が低下してしまった方を支援するための制度です。支援する人を後見人、支援される人を被後見人といいます。成年後見制度は、家庭裁判所が運用しており、法定後見制度任意後見制度の2つがあります。

 法定後見制度は、判断能力低下後に家庭裁判所が後見人を決定します。「後見」「保佐」「補助」の3つの類型があり、判断能力の程度など本人の事情に応じて制度を選べるようになっています。家庭裁判所によって選ばれた成年後見人等が,本人の利益を考えながら,本人を代理して契約などの法律行為を行うことで、本人を保護・支援します。

 任意後見制度は、本人が元気なうちに、将来判断能力が不十分な状態になった場合に備えて、あらかじめ後見人を自ら選んでおくものです。この制度を利用するのは、事前に任意後見受任者(任意後見人となる予定の者)と公正証書により契約を締結しておくことが必要です。また、任意後見開始時には、任意後見人を監督する任意後見監督人が必ず家庭裁判所によって選任されます。

 

2 「家族信託」とは

 家族信託とは、不動産やお金などの財産の管理や承継を信頼できる家族に託す制度です。家族信託は、文字通り「家族を信じて託す」という意味です銀行や証券会社ではなく、家族を信じて財産管理を託すのです。言い換えれば、家族による家族のための財産管理・承継制度といえます。家族信託を利用することにより、遺言や成年後見制度などではできなかったオーダーメイドの財産管理・承継が可能となります。

 家族信託では、財産の管理を託す人を「委託者」(いたくしゃ)、財産の管理を託される人を「受託者」(じゅたくしゃ)、信託から利益を受ける人を「受益者」(じゅえきしゃ)といいます。高齢の親(委託者)が、自らを受益者として、子供(受託者)に財産管理をお願いするケースが家族信託の典型例です。

 

3 「家族信託」と「成年後見制度」の違い

 一見似たような制度ではありますが、両者には下記のような違いがあります。

 ● 機能

 成年後見制度は、判断能力が低下した方の財産管理・身上監護(病院、介護、施設などの手続き)を行うことがすることが主な目的です。一方で、家族信託は、信託契約で定めた「信託目的」にしたがって、元気なうちから家族に財産管理をお願いし、さらに財産の円滑に承継させる機能もあります。

 つまり、成年後見制度は、財産管理+身上監護家族信託は、財産管理+財産承継の機能があります。

 なお、成年後見制度の財産管理は家庭裁判所の監督下で行われますが、家族信託の財産管理はあくまで家族の中で行うことになります。

 

 ● 始まりと終わり

 成年後見制度は、本人の判断能力の低下「後」にスタートし、本人の「死亡」によって終了します。

 家族信託は、原則として本人に判断能力がある「元気なとき」(判断能力の低下「前」)に開始し、本人の死亡など信託契約で定めた終了事由の発生により終了することになります。本人が死亡したときに終了するケースが一般的ですが、本人の死亡では終了させず、孫や曾孫などの数世代先まで継続させることも可能です(「受益者連続型信託」、「後継ぎ遺贈型信託」などと呼びます)。

 

 ● 財産管理・処分の対象と権限

 成年後見制度では、家庭裁判所から選任された「後見人」が財産管理・処分を行います。

後見人の権限は原則として「全財産」に及ぶことになります。一定の財産には処分には家庭裁判所の許可が必要となります。

 家族信託では「受託者」が財産の管理・処分を行います。受託者の権限は、信託契約によって定められた「信託財産」にのみ及ぶことになります。受託者は信託契約に定めがあれば、信託目的の範囲内で信託財産の管理・処分を行うことができます。後見制度と異なり、裁判所の許可は不要です。

 

 ● 監督者

 成年後見制度では、家庭裁判所の監督下に置かれるため、後見人は裁判所に対して定期的に報告をすることが必要です。また、成年後見監督人という後見人を監督する者が選任される場合があります。

 一方、家族信託では家庭裁判所に定期的に報告する必要はありません。信託契約に定めがあれば、受託者を監督する信託監督人や受益者の代理人である受益者代理人を選任することが可能です。

 

 

 

 ● イニシャルコスト

 成年後見制度を利用するには、家庭裁判所への申立手続きが必要です。申立手続きを司法書士や弁護士に依頼した場合には、印紙代などの実費を含めて10万円程度費用がかかります。

 家族信託を開始するには、司法書士や弁護士などに依頼するのが一般的です。

 

 ● ランニングコスト

 成年後見制度では、後見人は「家庭裁判所」が選任します。家族が必ずしも選任されるわけではなく、司法書士や弁護士などの専門家が後見人に選任されるケースが増えています。専門職が選任された場合、財産額に応じて報酬(月3万円~4万円程度)が発生することになります。また、本人の資産が一定額以上ある場合や任意後見制度を利用した場合など、後見人を監督する「後見監督人」という者が選任されます。後見監督人はほとんどのケースで専門家が選任されますので、上記と同様に報酬が発生いたします。

 家族信託では、原則としてランニングコストは発生しません。ただし、信託契約により信託監督人や受益者代理人として専門家を選んだ場合(必ず選任しなければならないわけではありません)には、専門家報酬が発生することになります。

 

 ● 本人死亡後の相続手続

 成年後見制度は本人の死亡によって終了するため、本人死亡後の相続手続きは原則として「相続人」が行う必要があります。成年後見制度の利用によって、相続手続きがスムーズになるわけではありません。

 一方、家族信託では、信託契約の中で本人死亡後の信託財産の承継先を決定することも可能です。承継先を決定しておけば、遺言書を残していた場合と同様に、相続手続きをスムースに行うことができます。

 

4 最後に

 成年後見制度と家族信託は、似て非なる制度といえます。開始時期、制度目的、権限など異なる部分が多く存在します。

 両者の違いやメリット・デメリットを理解し、自分と家族にとってどちらが最適な方法なのか決定しましょう。

 生前対策で最も大切なことは、「元気なうち」に開始することです。専門家を交えて一度家族で話し合いをしておくことをおすすめします。

生前対策を始める前に知っておきべき「3つ」のポイント

2020-02-23

はじめに

 

「人生100年時代」と言われる昨今、元気なうちに「生前対策」を行っておく必要性がとても高まっています。

 生前対策とは、幸せな老後や円満な相続を迎えるために元気なうちから対策を行うことを言います。筆者は、事前に対策をしていなかったために、家族が困ったり悲しんだりするケースを非常に多く目にしてきました。また、最近は、認知症を発症してしまい、対策をしたくてもできなくなってしまったケースも非常に増えています。

ポイント① 認知症対策(財産管理対策)

 

 超高齢社会がますます進展していく中で、認知症高齢者数も年々増加しています。内閣府の調査によると、団塊の世代が75歳以上となる2025年には、認知症高齢者数はおよそ730万人に上るとされています。これは、実に高齢者(65歳以上の人を言います)の約5人に1人にあたります。今後は、ご家族の中に認知症高齢者がいるケースが非常に増えてくるでしょう。

 認知症を発症し「判断能力」(物事のメリット・デメリットを判断する能力)が低下してしまうと、預貯金や不動産などの財産が凍結してしまう可能性があります。なぜなら、財産の管理や処分などを行うためには、法律上判断能力が必要となるからです。判断能力がない状態で行われた行為は法律上「無効」となってしまいます。

 例えば、親の介護費用や医療費などを親の預貯金から引き出す場合、親に判断能力がない状態では、いくら子供であっても預貯金を代わりに引き出すことはできません。また、親名義の不動産を売却してこれらの介護費用や老人ホームの費用を捻出しようとしても、所有者である親が認知症である場合には、子供であっても代わりに売却することはできません。

 事前に認知症対策を行っていなかった場合には、成年後見制度を利用するしかありません。成年後見制度とは、判断能力が不十分な人を法律面や生活面で支援するための制度で、家庭裁判所が運用しています。支援する人を後見人、支援を受ける人を被後見人といいます。成年後見制度は、周りに支援をしてくれる家族がいない高齢者の財産を詐欺被害などから守ることができるメリットがある一方で、家族がいるケースでは、財産が裁判所の監督下に置かれてしまう、後見人に弁護士や司法書士などの専門家が選任される可能性があるなどのデメリットも指摘されています。

 そこで、家族が認知症になってしまっても家族で財産管理ができる「家族信託」という制度が急速に普及しています。家族信託とは、財産の管理をお願いする「委託者」と財産の管理を引き受ける「受託者」との間で信託契約を締結することにより開始します。高齢の親を委託者、子供を受託者として家族信託を利用するケースが多いです。家族信託を利用して受託者である子供に管理権限だけを移転しておくことができますので、仮に親が認知症を発症したとしても、信託した財産については凍結を回避することができます。

 認知症対策も「認知症」になってしまうと行うことができません。元気なうちに対策を開始することが重要です。

ポイント② 遺産分割対策(争族対策)

 

 相続が発生すると相続人は様々な相続手続を行う必要がありますが、中でも一番重要で時間がかかるのが「遺産分割協議」です。遺産分割協議とは、亡くなった方が所有していた財産を相続人でどのように分けるかを話し合うことを言います。円満に協議が調うケースもある一方で、残念ながら遺産分けをめぐって争いになってしまい、いわゆる「争族」となってしまうケースも増えています。自分の家族が揉めることはないだろうと多くの方は思っています。しかし、実際は、相続の発生をきっかけに、今までの不平・不満が一気に爆発し紛争に発展していくケースを筆者は何度も経験してきました。

 このように、いくら仲が良い家族であっても、いざ相続が開始し遺産分割協議を行う際にはどうなるかは分かりません。そこで、相続人の間で遺産分割協議を行う必要がないように、元気なうちに「遺言」を準備しておくことをオススメします。遺言により財産の承継先を決定しておくことで、「争族」となってしまうことを防止できます。特に、子供がいない方や離婚歴があり前妻(前夫)との間に子供いる方は、争族リスクが高いと言われています。

 遺言にはいくつか種類がありますが、実務上は「自筆証書遺言」「公正証書遺言」が利用されることが多いです。

 自筆証書遺言とは、文字通り自ら手書きで書く遺言です。今までは、全文を自筆する必要がありましたが、法改正により財産目録部分は自筆でなくても良いことになりました。また、2020年7月より法務局で自筆証書遺言を保管する制度が開始されます。

 公正証書遺言とは、公証人が作成に関与する遺言をいいます。公正証書遺言は、自筆証書遺言に比べて、効力をめぐって争いになる可能性が少ないので、実務上は公正証書遺言が利用されるケースが多いです。

 認知症対策同様、遺産分割対策も判断能力があるうちにしか行うことはできません。「遺言書さえあれば」トラブルを回避できた事例はとても多く存在します。元気なうちに遺言を遺しておきましょう。

ポイント③ 相続税対策

 

 相続が発生すると財産規模によっては相続税が課税される可能性があります。全てのケースで相続税が発生するわけではなく、総財産の合計が基礎控除額を超えた場合に相続税を課税されることになります。なお、2015年の相続税法の改正により基礎控除額は引き下げられ、相続税の課税対象となる人が増加しました。

<基礎控除額>

3,000万円+600万円× 法定相続人の数

 

 例えば、相続人が配偶者と子供2人の場合、3,000万円+600万円×3名=4,800万円が基礎控除額となりますので、総財産が4,800万円を超えた場合に、超えた部分に対して相続税が課税されることになります。 

 相続税対策には、節税対策(相続税を減少させる対策)を納税対策(相続税を納める資金を準備する対策)があります。主な相続税対策としては、生前贈与、生命保険、不動産活用などがあります。

 相続税対策は、まずは現時点でどの程度の相続税が発生するかを試算することから始まります。そのうえで、どのような対策をどの程度行うのが最適なのかを、専門家である税理士からアドバイスを受けることになります。ここで重要なことは、「相続税専門」の税理士に依頼することです。医者にもそれぞれの専門分野があるのと同様に、税理士にもそれぞれ専門分野がありますので、必ずしも全ての税理士が相続税に詳しいとは限らないからです。

 認知症対策、遺産分割対策と同様、相続税対策も認知症になってしまうと行うことができなくなってしまいます。相続税を支払うのは相続人です。家族が納税に困らないようにするために事前に対策をしっかり行っておきましょう。

最後に

 このように、生前対策は、①財産管理対策(認知症対策)、②遺産分割対策、③相続税対策と3つのポイントを押さえて実行していくことが重要です。2015年の相続税法の改正により相続税対策ばかりがクローズアップされがちですが、認知症対策や遺産分割対策を行っていくことも大切です。特に、平均寿命がこれだけ長くなった現在、認知症によって財産が凍結してしまうと相続が発生するまでの長期間財産が動かせなくなるリスクがありますので、認知症対策の重要性は今後ますます高まっていくでしょう。

 生前対策は「元気なうち」にしか行うことができません。手遅れになってしまう前に早めに対策を開始することをオススメします。

 

家族信託の開始と同時に検討すべきことは?

2020-01-26

 近年、認知症による資産凍結対策の切り札として「家族信託」が急速に普及しています。弊社にも特に昨年から非常の多くの問い合わせや相談が寄せられるようになっています。

 実際、家族信託の多くは、高齢となった両親の「認知症対策」を目的として利用されます。認知症により判断能力が低下してくると、預貯金が引き出せなくってしまったり、不動産の売却ができなくなったしまったりと、「資産凍結」の問題が発生することになります。これを防止するために、家族信託を利用するのです。家族信託が開始することにより、信託契約によって受託者に管理を任せることにした信託財産については、受託者が管理権限を有することになりますので、親が認知症になっても財産凍結を回避することが可能になります。

 このように、家族信託を行う主な目的は「認知症対策」となりますが、開始にあたり他に考えるべき事項はないのでしょうか。事案により異なりますが、多くのケースで下記のようなことが検討事項となります。

① 信託しなかった財産の管理はどうするのか

 信託契約で定めた信託財産は受託者が管理することになりますが、それ以外の財産は引き続き「本人」が管理することになります。したがって、本人が認知症等で判断能力を失ってしまった場合には、成年後見人が信託しなかった財産を管理することになります。どの財産を信託財差とするのかを検討すると同時に、信託しない財産をどのように管理するのかも考えなくてはなりません。具体的には、「任意後見制度」の利用などを考えることになります。

② 信託しなかった財産の承継はどうするのか

 家族信託の多くは、委託者である親が死亡した際に終了する設計となっています。そして、家族信託が終了した場合、信託財産は信託財産により定められた帰属権利者に承継されることになります。つまり、信託財産の承継先は信託契約により決定することということになります。

 一方、信託しなかった財産の承継は、通常の相続となりますので、相続人による遺産分割協議または遺言書によって承継先を決定することになります。信託財産以外の承継先も事前に決めておきたいと考えるならば、「遺言書」の作成を検討することになります。

③ 相続税がかかるかどうか

 一定の財産規模を超えた場合には、「相続税」が課税されることになります。家族信託を利用したとしても、相続税がかからなくなるわけではありません。多少費用はかかりますが、家族信託と同時に「相続税の試算」を税理士にお願いすると安心です。

④ ライフプラン

 家族信託は認知症による資産凍結対策として行われるケースがほとんどですが、どの資産を凍結から守るかは「ライフプラン」を前提として決めるのが望ましいといえます。どこを終の住処としたいのか、自宅に住み続けたいならリフォームにどのくらいの費用を要するのか、老人ホームに入るとしたらどのくらいの費用がかかるのか、手持ちの老後資金で医療費や介護費は賄えるのかなど、老後の「ライフプラン」を決定した上で、家族信託を開始するのが本来あるべき姿です。家族信託を考える際には、是非考えてみましょう。

家族信託は始める前に最低限知っておくべき「受託者の義務・責任」

2020-01-26

 家族信託は、委託者と受託者が信託契約を締結することによって開始します。信託契約で定めた信託財産の管理権限は受託者に移転することになりますので、委託者が認知症等で判断能力を失ったとしても信託財産は凍結を免れることになります。これが家族信託が「認知症対策」と言われる所以です。

一方で、家族信託は開始することで受託者は法律上多くの義務や責任を負うことになりますので、事前に必ず理解しておくことが重要です。主なものは下記のとおりとなります。

●主な受託者の義務

①善管注意義務
受託者として通常期待される高い注意義務をもって信託事務を行わなければならない義務

②分別管理義務
信託財産と受託者の固有財産を分けて管理する義務
→不動産は、「信託の登記」、金銭は「その計算を明らかにする方法」によるべきとされています。

③帳簿作成・報告義務
受託者は、帳簿等の作成し、原則として毎年1回受益者に報告する義務

●主な受託者の責任

①損失填補責任
各種義務違反により、信託財産に損失が生じた場合に、損失を填補する責任

②所有者責任
法律上は、受託者が所有者。受託者が所有者としての責任を負うことになります。

③賃貸人責任
信託財産を賃貸する場合は、受託者が賃貸人としての義務を負うことになります。

 

上記以外にも受託者は様々な義務や責任を負うことになります。信託契約を締結する前に必ず専門家に十分に説明受けましょう。

家族信託はどこに依頼するべきか

2020-01-24

家族信託をはじめるとなった場合、どこに依頼するのがよいのでしょうか。

法律上どこに依頼しなければならないと決まっているわけではありませんが、一般的に司法書士・弁護士等の士業に依頼するのが一般的です。

今回は家族信託の依頼先について確認してみましょう。

  • 「信託」だから「信託銀行」に頼む? 

 「信託」と聞いて真っ先に頭に浮かぶのは「信託銀行」などの金融機関でしょう。確かに信託銀行でも信託を利用することはできますが、いわゆる家族信託を行うことはできません。家族信託では、受託者(財産の管理を託される人)を子供などの家族が引き受けることになりますが、信託銀行で行う信託は、手数料を払って信託銀行に受託者をお願いすることになります(なお、信託会社などに手数料を支払って行う信託を「商事信託」といいます。)。また、信託銀行に管理をお願いできる財産は、原則として金融資産だけですから、自宅などの不動産の管理をお願いすることはできません。

 金融機関でよく見かける「遺言信託サービス」は、金融機関が遺言書の作成・保管・執行を行うサービスですので、家族信託ではありません。「遺言信託サービス」は、あくまで亡くなった後の財産の承継先を決定する「遺言」です。

 

  • 家族信託の担い手

 それでは、家族信託はどこに依頼すれば開始できるのでしょうか。担い手となる主な専門家を確認してみましょう。

 

 ① 弁護士

 弁護士は、言わずもがな法律の専門家ですので、あらゆる法律問題に対応することができます。家族信託は、平成19年から施行されている信託法に基づいた制度です。したがって、弁護士であれば家族信託の組成から、組成後に紛争に発展した場合まで、家族信託に関する様々な法的問題に対処することができます。

 

 ② 司法書士

 司法書士は、不動産登記、商業登記、相続、成年後見などの専門家です。家族信託は、相続や後見と密接に関連していますし、多くの場合不動産を信託するので登記が必要となります。家族信託と司法書士の業務は親和性が高いので、家族信託をはじめる際は司法書士に依頼するケースが一番多いとされています。

 

③税理士

 税理士は、税金の専門家です。家族信託を利用する多くのケースでは、相続税などの試算をした上で、将来どのような財産承継をすることが税務上適切であるかシミュレーションをして実施します。したがって、税理士が家族信託のサポートを行うケースもあります。司法書士や弁護士と連携して行うケースも多くあります。

 

④その他

 上記のような士業の他に、不動産コンサルタントや行政書士など方々が担い手となることもあるそうです。家族信託の普及に伴い、今後様々な方が関わっていくことが予想されています

 

 ・まとめ

 家族信託はまだまだ新しい制度です。遺言や相続などと異なり、判例などが蓄積されているわけではありませんので、実務上解釈や運用が定まっていない部分も多くあります。だからこそ、家族信託について研究を積み重ね、より実績豊富な専門家を選ぶことが何より大切です。例えば、電話をして直接問い合わせてみる、ホームページなどに十分な案内がされているか確認する、知り合いから紹介を受けるなどの方法が有効でしょう。

 また、家族信託の組成にあたっては、ご家族ごとのライフプランに沿って、法務・税務の両面から様々な事項を検討することが非常に大切です。その意味では、複数の専門家でチームを組んでサポートする体制が整っているか確認することも重要です。ちなみに私の事務所では、税理士、弁護士、FP、不動産コンサルタントなどの方々と連携をとりながら家族信託に取り組んでいます。

家族信託を利用した方が良い3つのケースとは?

2020-01-23

急速に普及しつつある「家族信託」「民事信託」。雑誌やテレビで聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

今回は、家族信託を利用した方が良い3つのケースり上げてみたいと思います。

 

① 高齢の親が収益物件を保有しているケース

 ひとくちに「不動産」と言っても、自宅と収益物件では、管理などの事務負担は大きく異なります。テナントへの事務連絡や家賃回収から始まり、必要に応じて修繕を行い、売却や建替えを検討するときもあるでしょう。管理会社に依頼をしていれば日常の事務を任せることはできるでしょうが、大規模修繕や売却などは、所有者の判断で行わなければなりません。また、収益物件を複数所有している場合は、相続対策として金融機関から融資を受けて資産の組み替えを行う場合や不動産の法人化を行う場合もあるでしょう。管理会社に依頼していたとしても、所有者が認知症などで「判断能力」(物事のメリット・デメリットを理解する能力)を喪失してしまった場合、その収益物件は「凍結」(=管理や処分が誰もできなくなってしまう状態)してしまうことになります。収益物件を所有している高齢者は誰しも凍結リスクを有しているのです。

 このようなリスクに備えて、家族信託の利用を検討すると良いでしょう。例として、高齢の父が賃貸アパートを所有しており、日常の管理事務は長男に任せているが、老朽化に伴い大規模修繕や売却の可能性があるケースを想定してみましょう。

委託者(財産を託す人)を父、受託者(財産を管理・処分する人)を長男、そして受益者(利益を受ける人)を父として信託契約を締結します。信託する財産は、賃貸アパートと金銭です。これにより、賃貸アパートを管理・処分する権限は長男に移ります。しかし、賃貸アパートから生まれる利益(賃料など)はこれまでと変わらず受益者である父のものです。長男は、賃貸アパートのオーナーとして、家賃回収や修繕・建替えなどを行いつつ、賃料や売却代金を父に給付し、賃貸アパートだけでなく、父の生活を守ることができるのです。

 同様のケースでは、成年後見制度の利用も検討できます。しかし、成年後見制度は、父の財産を保全することが優先され、時には家族の意向が認められないこともあります。また、成年後見制度を利用した場合、財産の管理を長男が行えるとは限りません。誰が後見人として財産管理を行うかは家庭裁判所が決定しますので、家族ではなく弁護士や司法書士などの専門家が後見人に選ばれるケースもあります。もちろん、成年後見制度にもメリットもありますので、どちらを利用するのか、あるいは両方利用するべきなのかについては、必ず事前に専門家に相談の上決定するのが良いでしょう。

 

② 家族に認知症の方・障害者の方・ひきこもりの方がいるケース

 認知症の方・障害者の方・ひきこもりの方がいるご家族は、身体のこと・心のこと・財産のことなど、多種多様な悩みを抱えています。筆者は、ひきこもり支援団体の理事としても活動しており、近年は、家族信託を利用したひきこもりの財産管理・承継についてもサポートをする機会が多くあります。様々なご家庭の話を聞く中で、最も多いご相談は、「親亡き後問題」に関するものです。

 例えば、両親と長男、長女の4人家族で、長男が障害により自身で財産管理をできないケースを考えてみましょう。両親が元気な内は、これまでどおり両親のサポートの下、変わらず生活を送ることができます。しかし、両親が認知症になってしまった場合には、親自身の財産管理だけではく、長男の財産管理についても問題が生じることになります。さらに、両親亡き後については問題はより深刻化します。良かれと思い、長男に財産を多く相続させてもご自身での財産管理はできません。一方で、長女に財産を相続させても、それは長女の財産となりますから、長男の生活のために使うにも制限があります。

 そこで、弊社ではこのような場合家族信託の検討をおすすめしています。委託者を親、受託者を長女、最初の受益者を親として、信託契約を締結します。これにより、親が認知症になっても、長女が受託者として、親が健在の間は親の財産を守ることができます。また、親が死亡した後は、第二受益者として長男を指定することで、家族信託を継続し、長女が引き続き、長男のために財産を管理することができます。家族信託を利用することにより「親亡き後」もこれまでどおり財産の管理が可能となり、また財産の承継も円滑になされることになります。

 このように、家族信託は、認知症の家族・障害者の家族・ひきこもりの家族を守るために、家族が利用できる制度でもあるのです。

 

③ 親の判断能力が少し気になってきた家族のケース

 超高齢社会の進展に伴い、認知症高齢者の人数は急増しています。認知症を発症すると、「判断能力」を喪失する可能性があります。法律上、判断能力がない状態で行われた行為は無効となってしまいますので、認知症を発症すると、自分ではお金や不動産の管理・処分ができなくなる可能性があります。このような資産凍結の問題は、今後ますます深刻化していくことでしょう。

 弊社にご相談に来られるお客様も、すでに親が認知症で、判断能力を喪失してしまっているケースが少なくありません。しかし、認知症対策として利用される家族信託も、判断能力を喪失した「後」には、もはや利用することができなくなってしまいます。なぜなら、家族信託を開始するには、委託者と受託者で「信託契約」を締結する必要があり、契約を締結するには判断能力が必要となるからです(判断能力がない状態で締結された契約は法律上無効です)。事前に認知症対策を行っていなかった場合、事後的にとれる手段は「成年後見制度」しかありません。

 成年後見制度とは、判断能力が不十分な人を法律面や生活面で支援する制度です。家庭裁判所が運用しています。成年後見制度には、高齢者の財産を詐欺被害などから守ることができるというメリットがある一方で、後見が開始すると財産が裁判所の監督下に置かれることになり、原則本人(被後見人)のためにしか財産は使えなくなる、後見人に弁護士・司法書士等の専門家が選任されて報酬がかかる場合があるなどのデメリットも指摘されています。

 最も大切なことは、「元気なうちに」に対策を開始することです。判断能力がなくなってしまった後は、対策を行うことはできません。物忘れが多くなってきたなど親に衰えの兆候が見られた場合には、手遅れになる前に早急に対策を始めることが重要です。

 

最後に

 今回は、「今すぐ『家族信託』を検討すべき3つのケースとは?」というテーマで解説しました。いずれも弊社でよくご相談を受けるケースです。生前対策には、遺言や成年後見制度など様々なメニューがあります。中でも家族信託は、家族で協力し、家族で実行できる柔軟な仕組みです。

上記のいずれかに当てはまる方は、是非一度、家族信託について検討されることをおすすめします。

家族信託と生命保険信託の違いとは?

2020-01-22

 家族信託とともに、生命保険会社が提供する「生命保険信託」というサービスの利用が増えています。文字通り、生命保険と信託を掛け合わせたサービスで、通常の生命保険では得られない様々なメリットがあります。家族信託のウィークポイントをカバーする機能があることから、弊社でも家族信託を利用するお客様に対して、生命保険信託を勧めることがよくあります。

 

  •  生命保険信託とは

 生命保険信託とは、通常の生命保険契約と同時に信託契約を締結することにより、死亡保険金の管理や交付を信託銀行などに任せておくサービスをいいます。信託契約により、「生命保険金を受け取る権利」を信託銀行などに信託しておくことになります。これにより、信託銀行などが死亡保険金の受取人(受託者)となり、契約者の方が事前に定めたご家族(受益者)などに対して、事前に定めた金銭が定期的に交付されていくことになります。一般的に、生命保険金は受取人(受益者)が「一括」で受け取ることになりますので、受取人(受益者)としたいご家族が財産をきちんと管理できるかどうか不安な場合、生命保険信託はとても有用な制度です。

 

  •  生命保険信託の特徴

 生命保険信託には、次のような特徴があります。

①生命保険金の「管理」や「交付」を信託銀行などにお願いすることができる

 通常の生命保険の場合、契約者の方が亡くなった際には、高額な生命保険金が保険会社から一括で受取人(受益者)であるご家族に支払いがなされることになります。しかし、受取人(受益者)の方がご自身で財産の管理を行うのが難しい場合、保険金を直接受け取った後に適切な管理が行っていけるのか、という問題があります。例えば、受取人(受益者)が未成年のお子様や障がいをお持ちのお子様の場合、受取人(受益者)が認知症の方である場合などが想定されます。

 このような場合、生命保険信託を利用することにより、一旦生命保険金は信託銀行などに支払われることになります。その後、あらかじめ定められた金額が、信託銀行などから受取人(受益者)の方に定期的に交付されることになります。例えば、「毎月10万円を生活費として口座に振り込む」と定めておけば、信託銀行などから毎月そのとおりに交付がなされていくことになります。

 生命保険金の交付方法には、あらかじめ交付する金額、頻度、期間などを定めておく「定例交付」と、急な出費に対応するための「随時交付」というものがあります。定例交付により日常の生活費を定期的に交付することができます。定例交付の金額は、例えば、大学卒業までは月8万円、社会人になったら月10万円のように、受取人(受益者)の年齢やライフステージに応じて変更する設定をしておくことができます。また、随時交付により医療費・介護費・学費・相続税などの臨時の支出に対応するための金銭を交付することができます。最終的には、余った生命保険金を慈善団体などに寄付をする設定にすることも可能です。

 生命保険金の交付の際の手続きに不安がある場合には、「指図権者」を事前に定めておくことにより、受取人(受益者)の代わりに諸手続きを指図権者が行うことが可能です。指図権者には、親族だけでなく、後見人、弁護士法人、司法書士法人などを選ぶことが可能です。

 

②最初の保険金受取人(第一受益者)が亡くなった後の、次の受取人(第二受益者)を定めておくことができる

 通常の生命保険の場合、契約者が亡くなり生命保険金が受取人(受益者)に支払われた後は、その金銭は「受取人(受益者)自身の財産」となります。したがって、それを何に使うのか、誰に残すのかは受取人(受益者)の方の自由ということになります。

 これに対して、生命保険信託では、最初の生命保険金の受取人(第一受益者)が亡くなった後は、次の受取人(第二受益者)に保険金を交付するように定めておくことができます。例えば、妻を第一受益者として毎月10万円ずつ交付がなされるように設定し、妻が亡くなった後は、第二受益者である子供に一括で交付することということが可能となります。

 

  •  生命保険信託の利用を検討すべきケースとは

 生命保険信託は、主に次のようなケースで効果的と言われています。

 

①ご家族の中に障がいのある方やひきこもりの方がいる

 ご家族の中に障がいをお持ちの方やひきこもりの方がいる場合、相続や生命保険で金銭を遺したとしても、その後の管理に不安を感じる方は多いでしょう。生命保険信託を利用すれば、信託銀行等に金銭を管理してもらいながら、適切な時期に適切な金銭の交付を受けることが可能となります。

 

②お子様がいないご夫婦

 お子様がいないご夫婦の場合、ご夫婦それぞれの財産は、いずれ夫(あるいは妻)の兄弟に相続されることになります。例えば、夫が先に亡くなり夫の金銭を妻が相続し、その後妻が亡くなると、夫の金銭は妻の兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっていれば甥・姪)に相続されることになります。

 これは、お子様がおらず、かつ、親も既に亡くなっている場合、財産は原則として兄弟に相続されるという規定が民法という法律にあるためです。配偶者に財産を遺すには良いとしても、その後配偶者の兄弟姉妹に財産が相続されてしまうことについては違和感を覚える方も多いでしょう。そこで、生命保険信託を利用し、配偶者を第一受益者、自分の兄弟(あるいは甥・姪)を第二受益者とすることにより、配偶者亡き後は、あらかじめ設定した自分の親族に金銭を遺すことができます。

 

  •  生命保険信託の注意点

 生命保険信託の注意点として、次のようなものが挙げられます。

①すべての生命保険会社で利用できるわけではない

 生命保険信託はすべての生命保険会社で利用できるわけではありません。現時点では、プルデンシャル生命保険株式会社、ソニー生命株式会社などでしか利用できません。

 

②費用がかかる

 生命保険信託は、通常の生命保険への加入の他に、「信託契約」を締結することが必要となります。したがって、信託契約時と信託開始後に信託銀行などに対して手数料がかかります。利用の際は注意しましょう。

 

③遺言や家族信託などを同時に検討する必要がある

 生命保険信託は、自分が亡くなった後の生命保険金という「金銭」を最初の受取人(第一受益者)や次の受取人(第二受益者)に遺していく仕組みです。対象はあくまで生命保険金とした「金銭」のみですので、不動産やその他の金融資産をどのように管理・承継していくのかについては、別途遺言や家族信託の利用を検討する必要があります。

 

  •  生命保険信託と家族信託

 生命保険信託と家族信託の主な違いとしては、下記の2点を挙げることができます。

まず、上記で述べたように生命保険信託の対象は「金銭」に限定されますが、家族信託の対象は、金銭には限定されません。よって、特に不動産の管理・承継については生命保険信託では対応ができませんので、家族信託を利用することになります。

 次に、生命保険信託は、信託銀行などの信託業の免許を持つ「法人」が受託者として財産管理を行うのに対して、家族信託は、家族などの「個人」が受益者となるケースがほとんどです。よって、信託が長期間に及ぶケースの場合(例えば、障がいをお持ちのお子様やひきこもりのお子様のために家族信託を利用するような場合)、家族信託のみを利用すると受託者が病気や事故などで財産管理ができなくなってしまうリスクが高まりますので、生命保険信託を同時に利用し「金銭」については信託銀行などに管理を任せることにより、安定的な信託を実現することが可能となります。

 

以上のように、生命保険信託には通常の生命保険では実現できない多くのメリットがあります。また、家族信託と併用することによりより安定した財産管理・財産承継が可能となります。一度利用を検討されていかがでしょうか。

家族信託と任意後見制度の違いとは?

2020-01-21

家族信託の相談やセミナーでよく質問を受けるのが、家族信託と任意後見の違いです。財産管理をお願いする人を事前に決めておけるという意味では似ている制度ですが、下記のような違いあります。

決めて①任意後見制度でとは、法定後見制度と異なり、事前にご家族を後見人に選任しておくことは可能ですが、後見人を監督する任意後見監督人という専門職(司法書士・弁護士など)が必ず選任されます。ご家族に財産管理を任せることができるという点においては家族信託と同様ですが、任意後見制度も成年後見制度の1つですので、裁判所の監督に服するという点で家族信託とは異なります。
 
②任意後見制度の場合(法定後見も同様です)、任意後見人の財産管理の対象は「全財産」となります。一方、家族信託における受託者の管理対象は「信託財産」(信託契約で定めた財産)のみとなります。追加信託により、信託財産は後ほど追加することが可能です。なお、家族信託の場合は、受託者が年金受給を行うことが現状できない関係で、厳密な意味で「全財産」を信託することはできません。信託契約時点の全財産を信託したとしても、その後親の口座に年金が振り込まれてしまうので、必要があれば適宜追加信託を行う必要があります。

③任意後見人の役割は、財産管理と身上監護にあります(法定後見人も同様です)。身上監護とは、本人の医療、介護、福祉などに関する法律行為を行うことをいいます。例えば、入院の際の手続きや法人ホーム入居の利用契約手続などがこれにあたります。一方、家族信託の受託者には身上監護の権限はありませんので、これらの手続きを代理する権限はありません。

④任意後見契約は、契約と同時に開始するのではなく、判断能力低下後に家庭裁判所に申し立てをすることにより開始します。一方、家族信託は信託契約と同時に開始します。

⑤任意後見制度では、司法書士・弁護士等の専門家を任意後見人に選任することが可能ですが、家族信託では、専門家を受託者として選ぶことはできません。

 

以上が主な相違点となります。

どちらを選択するのか、あるいは併用するのかは専門家に相談の上、慎重に決定しましょう。

【家族信託コラム】家族信託はいつから始まるの?

2019-06-30

認知症対策として利用することが多い家族信託ですが、その効力はいつから発生するのでしょうか。

認知症対策と聞くと、「認知症を発症してから」(=判断能力がなくなってから)家族信託が開始されると誤解されている方もおりますが、家族信託は「信託契約と同時」にその効力が発生します。つまり、信託契約と同時にということは、契約は元気なうち(判断能力があるうち)にしか締結できないので、家族信託の効力は「元気なうち」に発生することを意味します。後見制度は、判断能力が低下・喪失してから開始されますが、家族信託は元気なうちから開始するのです。

認知症になってから家族信託が開始するという条項を入れて契約を締結することも法的には有効ですが、登記手続や金融機関での手続ができなくなってしまう可能性があるので、実務上はこのような定めをするのは避けた方がよいとされています。

元気なうちに開始してしまうということが、家族信託をはじめるタイミングの判断を難しくすることになります。認知症による財産凍結は避けたいので今すぐ信託を始めたいと思う一方で、今すぐ(=元気なうちに)受託者である子供に信託財産の管理権限が移ってしまうのは少し早い気が・・・ということで、もう少し時間が経ってから信託を開始しようという判断に至ることがよくあります。

一方で、すでに判断能力が低下してしまった方のご家族からの相談も非常に増えています。判断能力が低下したからといって家族信託や遺言などの生前対策が必ずしも不可能となってしまうわけではありませんが、すでに対策ができない状態となってしまっているケースも多く見受けられます。

元気なうちにしか信託を利用できないというの理解できても、人間元気なうちは信託などの対策のことなど考えたくはないというのが本音だと思います。

一概にいつ開始するのがよいとは言えませんが、一度家族会議を行って家族信託や遺言等について専門家を交えて話し合っておくことをおすすめします。

 

 

 

 

【家族信託コラム】信託報酬はどのように定めれば良いか?

2019-06-14
家族信託を開始するにあたり、受託者となる子供などの親族に報酬を与えることも可能です。
信託報酬を与える場合には信託契約においてその旨を定めることとなります。

具体的な報酬額については、一般的に「①具体的な報酬額を設定する方法」、「②報酬額の具体的な算定方法を設定する方法」、「③相当な額として設定する方法」などがあります。
報酬額について、法律上は下限や上限の制限がありませんが、過大な報酬を設定した場合には税務上否認されるリスクは当然あります。

①の方法を採用する場合、成年後見制度を利用した場合の、「成年後見人等の報酬額のめやす」を参考に決定する方法があります。

<参考>
http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/130131seinenkoukennintounohoshugakunomeyasu.pdf

その他、一般的な不動産の管理報酬の相場(賃料の3~5%程度)も基準の1つとなります。

②の方法を採用する場合、一般的な不動産の管理報酬の相場を参考に、
「受託者の報酬は、信託財産である賃貸用不動産の賃料収入の○○%を毎月末日に支給する」
といった定め方があります。

③の方法を採用する場合、「相当な額」だけですと、報酬支給の都度、根拠を示さなければなりませんので、
「受益者(受益者代理人が選任されている場合は受益者代理人)と受託者との協議により決定する」といった定めを設け、
受託者が変更する度、あるいは報酬額を変更する度に協議を行うこととなります。

信託報酬を設定するにあたっては、司法書士・税理士などの専門家に相談した方が良いでしょう。

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